【対談】「推し活トレーラー」誕生の裏側。トレーラーハウス × IPが仕掛けるシティープロモーションの可能性
SDRS株式会社 常務執行役員 大木 哲秀様 ✕ トレーラーハウスデベロップメント株式会社 専務取締役 板垣 和洋- エリア:
- 群馬県前橋市
- 業種:
- 自動販売機、冷蔵・冷凍ショーケースの製造販売
常務執行役員
- 展示会での出会いから始まった共同開発
板垣:まずは、私たちが出会うきっかけとなった経緯からお話しいただけますか。
大木:そうですね。そこが繋がらないと、今回のプロジェクトには至りませんでしたから。始まりは、幕張で開催された展示会でした。
その時、私たちは別のトレーラーハウスを使って出展していました。当時は地震などの被災地支援でトレーラーハウスが活躍していましたので、「有事の際に活躍するトレーラーハウスを、平時にどう有効活用し社会貢献に繋げるか」をテーマに掲げ、色々と研究を進めていました。
そこでTHDさんと知り合い、トレーラーハウスの新たな可能性について意見を交わすようになったんです。私たちは「平時の有効活用による社会貢献」というテーマの中に色々な可能性を感じていたのですが、その中で今の時代がエンタメへとシフトしている点に着目しました。更に「推し活」というキーワードを取り上げ、社内でも色々と研究を進める事になりました。
実は弊社には社内に「推し活クラブ」という部活動があり(笑)、日々どんな「推し」やトレンドがあるのかを議論していたんです。私たちの本業は「モノを売るためのチャネル(販路)作り」ですので、その観点から推し活層に響くアプローチはないかと研究を重ねていました。
- 単なる「モノ売り」ではない、ファンのニーズをすべて叶えるハブ
大木:研究を進める中で分かったのは、推し活におけるグッズ購入は「買うこと自体」だけが目的ではなく、「買って楽しむ、体験する」ことまでが含まれているという点です。聖地巡礼をして、写真を撮り、SNSにアップする。一連の活動すべてが「推し活」なんですよね。 だからこそ、単にグッズを売るだけでなく、すべてのニーズを叶える場を作りたいと考えた結果、このトレーラーハウスという形に辿り着きました。
板垣:実際に今、アニメ『前橋ウィッチーズ』の聖地に設置されていますが、まさにその通りの光景が見られますね。中に入らなくても、外観の写真を撮って楽しんでいるファンの方を何人も見かけます。
大木:そうなんです。ファンの方はここでトレーラーを見て感動し、写真を撮り、グッズを買い、それをSNSに発信する。そこからコミュニティが広がっていくという、トータルな「推し活の場(ハブ)」として機能しています。 この作品『前橋ウィッチーズ』は、前橋市のシティープロモーションを兼ねたアニメですが、弊社の工場が前橋にあることも手伝って、非常に親和性の高い企画になりました。
- 「5台の自販機」と「3.5トンの壁」。試行錯誤の設計裏話
板垣:大木さんから「前橋市が舞台となるアニメ作品の企画があるので、その物販ができるトレーラーハウスを作りたい」と最初にご相談いただいたのが、ちょうど1年ほど前でしたね。
大木:そうですね、2025年の4月頃でした。自動販売機のパーツを組み込んだトレーラーハウスを作りたいとお話ししました。ただ、私たちは自販機の筐体(箱)は作れても、その中身(自動販売機能)だけをトレーラーに組み込むという経験がありませんでした。そのため、THDさんのエンジニアの方と一緒に図面を引き、レイアウトを作り上げていきました。
板垣:一番の課題は「重量」でした。トレーラーハウスとして牽引するにあたり、総重量を3.5トン以内に収める規制がありました。しかし、キャラクターが5人いるため、5台分の自販機機構を設置しなければならない。この軽量化が最大のポイントでしたね。
大木:がっちりとした強固な自販機枠を組めば構造としては楽ですが、それでは重くなりすぎてしまいます。そのため、なるべく軽いアングル(鋼材)で構造を作る工夫をしました。とはいえ、ファンの方が触れたり寄りかかったりした際に倒れては困るため、最終的にはトレーラーハウス側の躯体の強度で、しっかりと支えてもらいました。そこがやはりTHDさんとしても難しかったですか。
板垣:そうですね、入り口の開口部の取り方やドアの配置も、運用しながらアップデートしていきました。当初は開け放した状態を想定していましたが、最終的には閉めた状態でも運用できるようにし、さらに裏側から商品の補充ができるように、ドアも追加しましたね。
大木:そうそう、売りながら裏で補充できる構造は本当に助かっています。通常のトレーラーハウスでは、これほどドアだらけのレイアウトになることは珍しいのかな、と思っています。
さらに、走行時に重い部品をスムーズに動かせるよう、床面にレールを埋め込む工事をしてくださいました。あのアイデアは、実際の運用で大いに活きています。
- 圧倒的なビジュアルが「ランドマーク」となり、SNSで大バズ
板垣:「そうして「トレーラーハウスショー」の納期に向けて、約3ヶ月という短期間で作り上げました。
大木:どうせラッピングするなら、中途半端ではなく「全面きれいに巻いてしまおう」と言い始めたのが7月頃でしたね。結果として、あそこまで目立つビジュアルになったのは正解でした。
板垣:「東京トレーラーハウスショー」でも、圧倒的に一番目立っていました。私たちの実績としても、ここまで全面ラッピングして作り上げたトレーラーハウスは、ちょっと他には無いですね。あの大きさでフルラッピングされた巨大な絵が動くわけですから、宣伝カーとしての価値も非常に高いと感じました。
大木:展示会に出展した瞬間、弊社の公式X(旧Twitter)の反響が凄まじかったです。普段は100ビューほどの投稿反響でしたが、その時はわずか1日で1万5,000ビュー以上に跳ね上がり、リツイートの勢いも抜群でした。
ここに設置して1ヶ月以上が経ちますが、県外から来るファンの方にとって、いまや一つの「目的地」になっています。駅に降り立ち、私たちが寄贈した巨大ポスターや街中のアーケードを巡りながら、最終的にこの『ザ・聖地』であるトレーラーに辿り着くという、非常に良い循環が生まれています。
更に、このトレーラーハウス自体が非常に目立ちますから、たまたま公園に遊びに来た人が、この圧倒的なインパクトに惹かれてやってきます(笑)。「前橋ウィッチーズってなに?」となり、地元だけど作品を知らない方にも認知してもらえる、そういったシティプロモーションの役割を果たしていると感じます。
板垣:自治体の方の協力があるのが、効果として大きいですよね。設置しているだけで、日中は無人で自動的にグッズが売れていく。設営や撤収の手間がかかるテント型イベントと比べても、この無人かつアイコニックなビジュアルでの運用は、非常に斬新なビジネスモデルだと感じます。
- 流通業界・IPホルダーが注目する「移動式ハブ」の未来
大木:2回目に出展した「スーパーマーケット・トレードショー」では、クローズドな展示会ということもあり、大手小売業(リテーラー)や、すでにIP(知的財産)を活用されている企業からの反響が非常に大きかったです。 最近はコンビニやドラッグストアでも、地元のスポーツチームやIPとコラボした店舗作りが増えています。そのため、「このトレーラーをどう活用できるか」という具体的な問い合わせを多数いただいています。
板垣:私たちが目指しているのは、人が過ごす空間、あるいは常設の店舗・事務所として「いかに頑丈で居心地が良いか」という耐久性の追求(CFS工法)でした。しかし、今回こうしてエンタメと融合したことで、構造としての強みを保ちながら新しい建物の価値を提示できると確信しました。今後の展開への大きなヒントになります。
大木::私たちは今回、バンダイナムコフィルムワークスさんをはじめとするIPホルダーの方々と仕事を共にしたことで、IP業界の仕組みを深く学ぶことができました。現在は、市販グッズだけでなくオリジナル商品の開発・販売という次のステップに動いています。 他のプロダクションの方や、IPホルダーの方からもお声掛けをいただいています。アーティストやアニメ作品をテーマにする上でも、単純にグッズを売るだけではなくて、存在自体が人を引き寄せる「マグネット」となるのが、トレーラーハウスだと気づかされました。常設だけでなく「走る宣伝カー」としても全国に展開していきたいですね。
板垣:新しいビジネスモデル、そして新しいトレーラーハウスの有効活用の一例として、より多くの人にこの可能性を広げていきたいですね。今回は素晴らしいコラボレーションができ、非常に有意義でした。今後ともよろしくお願いいたします。
大木:こちらこそ、ありがとうございました。ぜひさらに展開を広げていきましょう。
『前橋ウィッチーズ』公式サイト:https://www.maebashi-witches.com/
撮影場所:楽歩堂前橋公園 前橋公園管理センター近く(群馬県前橋市大手町三丁目15)