陰圧装置

陰圧装置_アイキャッチ

医療用トレーラーハウス「MEDICAL CUBE®(メディカル キューブ)」、駐車場に置くだけで発熱外来や診察室になる事から、医療機関で導入が進んでいます。この製品は室内に陰圧装置を搭載しており、空気清浄と換気が同時に行なえる空調性能が特徴です。実はこの陰圧装置、当社が独自に設計開発したオリジナル品という事は、あまり知られていません。その装置の開発ストーリーについてご紹介します。

コロナショックとトレーラーハウス

2020年1月より、日本で新型コロナウィルス感染拡大が始まりました。緊急事態宣言が発令される中、全国の医療機関がその対応に追われた事は、多くの皆様方の記憶にあるかと思います。様々な医療環境を取り揃える必要がある中、「発熱された外来患者様を、病院の建屋以外で診察したい」というニーズがありました。病院内へ受け入れてしまうと、他の患者様との接触がどうしても発生してしまい、感染リスクが高まるからです。

私たちはこの要望を聞き、たまたま別用途で製造していた「OFFICE CUBE(オフィス キューブ)」を医療機関向けへ提供する事にしました。当社の車検付きトレーラーハウスは自動車ですので、建築物に該当せず駐車場に置くだけで手軽に診察室を実現出来るからです。

更に「トレーラーハウスを社会に役立つインフラにしたい」という使命感を持つ当社として、未曽有の危機に立ち向かっている医療機関様の一助になりたいという想いから、最大5カ月間の無償貸出を行なう事としました。

プレスリリースで無償貸出をお伝えした途端、申込が続々と寄せられました。クリニックから地域総合病院までと幅広い医療機関様からお申込があり、地域も北海道から熊本までと、全国規模でトレーラーハウスを届けました。

陰圧装置との出会い

こうした貸出の活動を行なっている中、更に医療機関向けに性能を充実させたいと考えました。医療従事者の二次感染が脅威となっている事に注目し、「換気性能の向上」「飛沫感染の予防」の実現が安心出来る診療環境に繋がると判断しました。

また、医療機関の感染症診察室は陰圧空間となっている事が一般的です。陰圧空間とは室外に対し気圧を低くする事で、室内の空気・ウィルス・細菌が外部に流出しません。トレーラーハウスの室内を陰圧空間にすれば、屋外への影響も無く、どこでも安心して設置出来ます。陰圧空間を実現した「MEDICAL CUBE®(メディカル キューブ)」の開発をスタートする事となりました。

どのように陰圧空間を実現するのかを調査したところ、陰圧装置を室内に組込み適切な吸気と排気を行なえば良い事が分かりました。早速、既成の製品を取り寄せてトレーラーハウスに置いてみました。風量など性能としては概ね問題無かったのですが、どうしても装置自体が目立ってしまいます。「これでは診察を受けている患者様にもストレスだろう」「メーカーである私たちなら、陰圧装置が室内に埋め込まれて一体となった部屋そのものを作れるのでは」という話になりました。さらに、「既成の製品を埋込むよりも、自社製品の空間に最適な装置を自分たちで作れないか」という話題にまで広がり、私たちは試行錯誤しながら装置自体も開発する事となったのです。

陰圧装置の設計とテスト

陰圧装置とは、大まかに言うとファンを動作させて室内の空気を「給気」し、屋外へ「排気」する装置です。吸気から排気の過程で空気が「HEPAフィルター」を通過すれば、空気清浄も行なえます。早速、ファンやHEPAフィルターなど必要な部品をピックアップして取り寄せました。

取り寄せた部品を元にした設計図面を製作します。設計にあたり必要なのは「給気」「空気清浄」「排気」の3つの機能をスムーズに行なうこと。空気が漏れなく排気まで通過するよう、ミリ単位での設計を行ないました。フィルターも、ホコリを取り除く「プレフィルター」、細かな微粒子を取り除く「HEPAフィルター」の2種類を使う事にしました。

各部品を自社工場へ持込み、設計図面を元にモックアップを製作しました。まずは木材を使って組み立てていきます。出来上がったモックアップを、トレーラーハウスの室内に置いてテストを行ないます。吸気量や結果は概ね良好な数値が検出されました。基本的な構造としては、これで実現出来そうです。

モックアップを作り検証している中で、メンテナンス性にも注目しました。フィルターを利用する事で空気清浄は行えますが、使用時間が増えてくるとフィルターに汚れが溜まり排気性能が低下します。そこで、ユーザーがフィルター交換の時期が分かるように、排気性能が低下すると点灯するセンサーを付ける事にしました。センサーを取り入れる事も初めてでしたので、自分達でセンサーを調達しプログラムを組み込み、試行錯誤の末にセンサーが反応する最適な閾値を設定する事が出来ました。

木製モックアップの仕様確認

木製モックアップの仕様確認

木製モックアップを設置して測定

木製モックアップを設置して測定

陰圧装置の設計とテスト

いよいよ、モックアップから実際の製品へと仕上げていきます。製品は木材ではなく鉄板を利用して作っていきます。鉄板を精密加工していくので、協力会社様に作業を依頼する事になりました。先方へ出向き今回の計画と仕様をプレゼンテーションし、制作協力を要請しましました。「医療機関様へ安心出来る診察環境を提供したい」という想いに共感頂き、いよいよ取組みが始まりました。まずは鉄製の試作版を作り、その性能をテストする事になりました。

モックアップを元に製図した、鉄製陰圧装置の図面を渡します。その後、協力会社様の方で実際に切断作業する為の実施図面を製作、それを元に鉄板をレーザー切断して組み上げていきます。当初はすぐに完成するだろう、と考えていましたが、部品の微妙な取付け位置を考慮して切断サイズを決定していくのが実に緻密。こちらの当初設計した図面の微調整を何度も繰り返し、最適なサイズと位置関係を作り上げました。この部分が、今回で一番大変だった事です。

試作版の製作と並行して、トレーラーハウスの室内空間も見直しました。「飛沫感染の防止」を実現出来ないかと考えている中で、室内の気流の流れに注目。医療従事者が風上に立てば、飛沫を浴びる事なく診療が行なえると考えました。早速室内設計をして、壁内に置く陰圧装置の向きの検討、エアコンの取付け側に給気口を設けて、気流を一定方向に制御する事が出来ました。

室内気流の流れ

室内気流の流れ

ようやく鉄製の試作版が完成、早速トレーラーハウスの中へセットします。室内の壁面を一部加工して、陰圧装置がそのまま置けるようにしました。別の壁面にはフィルター交換を知らせるセンサーランプを取り付けています。スイッチを入れます。陰圧装置のファンが回り始め、室内が陰圧環境になっていきます。計測器で室内や屋外の排気口付近を計りました。結果、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の推奨換気要件(12回/時)を大きく上回る換気性能(20回/時)を測定、給気量や排気量の数値が予想以上に良好である事を確認しました。

このようにして、約3ヵ月という短期間で陰圧空間を実現した「MEDICAL CUBE®(メディカル キューブ)」が完成しました。陰圧装置も量産型を製造し、製品には全て陰圧装置を組込んで出荷しています。トレーラーハウスの研究開発を行ないながら、その周辺環境も作り出していく。簡単なことではありませんが、これからも社会に役立つ製品作りをチャレンジしていきたいと考えています。

メディカルキューブ

メディカルキューブ

陰圧装置内 空気清浄フィルター

陰圧装置内 空気清浄フィルター

陰圧装置内蔵空間

陰圧装置内蔵空間

陰圧装置内蔵空間 装置外観

陰圧装置内蔵空間 装置外観

該当する製品

メディカルキューブ

https://www.trailer-house.co.jp/product/medical-cube/