イベント出展

トレーラーハウスになった「中銀カプセル」は、移動体として進化を遂げた。

工学院大学 教授 鈴木様
エリア:
東京都
業種:
工学院大学建築学部教授
製品:
専用シャーシ
鈴木 敏彦

建築家、デザイナー、一級建築士

改めて「中銀カプセル」の紹介、文化的意義を教えてください。

中銀カプセルタワーは、建築家の黒川紀章が提唱していた「ホモ・モーベンス(移動しながら働き暮らす人)」という新しい価値観を実現する為の住まいとして1972年に建築され、「メタボリズム(新陳代謝)」概念の象徴的な建物となりました。それぞれの部屋は独立したカプセル構造になっており、必要に応じて他のカプセルに交換可能な設計という、非常に斬新なビルでした。

 

ビルは残念ながら2022年に老朽化のため解体されましたが、発足した「保存・再生プロジェクト」によってカプセル140個のうち23個が取り外されました。その一つを譲り受けたのが、「ヨド物置」で知られる淀川製鋼所でした。

淀川製鋼所は、私の監修の下に「ヨドコウプラス: YODOKO+」というデザインブランドを展開しており、ニューノーマルの暮らしをデザインすると銘打って、移動型のオフィス家具などを取り扱っています。まさに黒川の提唱する「ホモ・モーベンス」の精神を実現する事業であり、そのブランドのシンボルとして「移動する中銀カプセル」を誕生させられないか、と考えた事がきっかけです。

中銀カプセルをトレーラーハウス化するまでの経緯を教えてください。

カプセルを移動体にするためには、トレーラー型にするのが最適という見解を持ちました。そのためにはカプセルを積載出来る車台が必要です。専用の車台を設計・製造できるメーカーを探しました。
幾つかのメーカーに断わられましたが、そんな中でトレーラーハウスデベロップメント株式会社(以後、THDと表記)からは製作可能と返答を頂いたのでお願いする事となりました。

専用シャーシを設計しトレーラーハウス化する際のエピソードがあれば教えてください。

今回、最も苦労したのが重量です。THDさんに教えてもらい、トレーラーハウスの規定車両総重量は3.5tであることを知りました。ところが、この「中銀カプセル」は内装を取り除いたスケルトン本体の重量だけで2.5tありました。専用の車台重量は0.8tですので、合計すると3.3tとなります。これでは、室内の備品は殆ど入れる事が出来ません。

 

そこで、斜材を外したり床の鉄板を木材に交換したりと様々な工夫をし、約500kg軽量化して2tにしました。最後に、壁・天井の仕上げを諦めて現わしとし、復元した家具などを取り付けた結果、上限値0.7tのところを0.67tという非常にギリギリの重量で仕上げる事が出来ました。

これにより総重量は3.47tにて完成、規定車両総重量3.5tを下回り無事クリアしました。最後の計量で重量が規定内に収まった時、みんなで万歳して喜んだのを覚えています。

 

実際に仕上げてみると、バスユニットも一部壁を取った状態で、中が良く見えました。結果的に図鑑の断面図のような見やすさがあり、かつての構造材も見ることができる展示空間となったと感じています。

イベント展示を数多く行われている中での、見学者の反応はいかがですか。

東名高速道路を往復しながら千葉・東京・大阪・名古屋など、全国6ヵ所にてこのカプセルを展示しました。いざ出展してみると圧倒的な注目度があり、多くの来場者様に喜んで頂けました。

企画元である淀川製鋼所は「新しいことへの挑戦に繋がった」と、非常に手応えを感じています。今後も、さまざまな展示会を企画していきたいと考えています。

プロジェクトとして今後の取組みを教えてください。

「中銀カプセル」と全く同じシャーシ(車台)を使った新しいトレーラーハウスを次世代型カプセルとして開発しています。それはCLTを用いたトレーラーハウスです。

CLTとはCross Laminated Timber(JASでは直交集成板)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。軽くて地震にも強いなど、非常に魅力的な素材です。また、CLTは環境負荷が小さく、CO2排出量削減や森林保全にもつながる材料です。サステナブルな材料としても、利用者に対してメッセージ性を持つ素材と言えます。これを積極的に取り入れました。

 

CLTは構造材でありながら仕上げ材にもなります。床・壁・天井の全ての面をCLTで統一していますので、室内に入ると木に囲まれたリラックスできる空間を楽しめます。デザインに関して、丸窓は「中銀カプセル」のオマージュとして取り入れています。

最後に、今後のトレーラーハウス、シャーシに期待する事があれば教えてください。

黒川紀章が50年前に予言した「これからのキーワードは移動の可能性だ」という言葉が、この現代で益々リアリティを持って捉えられています。トレーラーハウスは移動の象徴といえます。もっと空間の移動可能性を見出していく事で、今まで以上の価値が生まれてくると感じています。
これからの発展に期待しています。

参考リンク

工学院大学:https://www.kogakuin.ac.jp/index.html
工学院大学イベント記事:https://www.kogakuin.ac.jp/news/2023/092202.html

ATELIER OPA(アトリエオーピーエー):https://www.atelier-opa.com/tcap.html

ヨドコウ+:https://yodokoplus.com/trailer-capsule/

弊社担当者からのコメント
歴史的な建築遺産の「中銀カプセル」をトレーラーハウスにする、それは黒川紀章氏が50年前に提言していた「移動の可能性」を実現する形になったと知り、大変感銘を受けました。コンパクトな空間に家具や設備がパッケージングされていて、その発想はキャンピングカーやタイニーハウスにもつながる源流だと感じました。
これからも「中銀カプセル」がトレーラーハウスという形で人々に伝わり、その魅力が受け継がれていく事を期待しています。

事業戦略部 事業推進課 齋藤 將太郎